はじめに
コシアカツバメの定点観測を一通り終えたので、振り返りの記事を書きます。2025年の夏、我が家のベランダに巣を作ったコシアカツバメの2期にわたる子育てを見守りました。1期目は4羽のうち1羽が早期に死亡したものの、残り3羽は無事に巣立ちました。2期目も4羽生まれましたが、2羽が落下後に死亡、1羽(ジャイアン)は巣立ちに成功したものの、最後の1羽(チュータ)は巣立ち直前に命を落としました。
もし、コシアカツバメが家に巣を作ってしまったという方がいたら、この記事が参考になれば幸いです。
結論から言うと、敷地内の一部を野生生物に貸しているだけという考えだと、ヒナが落下した際にとても困る可能性があります。 これは人と野生の生物の間に一線を引くのか、保護まで考えて対応するかという覚悟が必要だと思いました。
多くの場合は落下しない、もしくは発見時には手遅れということが多いのでそこまで気にする必要もないのかもしれません。今回は定点観測し、ヒナの落下が断続して発生し、なおかつ、ヒナの発見をすぐに知ることができたというレアケースだと思いますので、その体験の共有と対策について考察しています。
観測を始めたきっかけ
巣の場所は物置用部屋のベランダで、全く開けていない部屋でした。昨年の冬に開けると、ボロボロになったヒナの死骸が1羽ありました。その上を見上げると巣がありました。巣の中をカメラで見たところ何もなかったので、既に巣立った後でした。その時は巣を撤去し、フンや死骸を片付けました。
それから年が明け、完全に忘れていたのですが、6月ごろベランダを見上げると巣が作られていました。
卵やヒナを持っている鳥は鳥獣保護法で巣を破壊してはいけないそうです。鳥獣保護法の8条によると「鳥獣を捕獲・殺傷したり、鳥類の卵を採取・損傷したりすること」は禁止されており、違反した場合は1年以下の懲役または100万円以下の罰金とのこと。
正直、やられたなという気持ちでした。撤去できないなら何かエンジニア的アプローチはできないか?ラズパイ(小型PC)と手持ちのWebカメラを使って、巣の定点観測をYouTubeでライブ配信したら面白いのでは? という技術的興味もありました。物置部屋なので実害もないし、自動で配信できれば手間もかからないだろうということで、巣の定点観測を始めました。
配信システムについて
配信システムの構築やYouTubeでの視聴者獲得については、技術的な話が長くなるので別記事にまとめています。興味のある方はそちらを参照してください。
- 配信システム構築: ラズパイ5でYouTube Live野鳥配信+リアルタイム動体検知システム構築
- LINE通報システム: YouTube Liveコメント監視システム|鳥の定点観測で緊急通報を実現
- 初期の配信構築: ラズパイでYouTubeライブ配信
ポイントだけ触れておくと、配信していくうちに「見守り隊」と呼べる方々がライブを定期的に見てくれるようになりました。ショート動画を毎日投稿することで、じわじわとライブの視聴者も増えていきました。この見守り隊の存在が、後のヒナ救出に大きな役割を果たすことになります。
1期目の子育て
1期目は4羽いたのですが、早々に1羽が死に、親鳥が巣から持っていくのを確認しています。その後、3羽は特に落下もせず、気づいたら巣立っていました。
この巣立ちのタイミングは少し感動し、このあたりから私もツバメについて関心を持つようになりました。
予想外の2期目
1期目が終わり「今年は終わりだな」と思っていたところ、2回目の産卵が確認されました。実際には殻を親鳥が持っていくタイミングでヒナの誕生を初めて確認できたのですが、全く予想していませんでした。少なくとも、軒下ツバメで2期目というのを経験したことがなかったので。終わりだと思っていたら、まだ前半だったという感じです。
せっかくなので、巣立ちの感動を少しでも多くの人が体験できればと思い、ショート動画を頑張りました。ヒナが少しだけクチバシだけ見せるようになり、3羽は確認でき、次の日に4羽を確認しました。3羽ですらいっぱいいっぱいだった給餌が4羽。穴の入り口は2羽分しかないので果たして……

立て続けの落下と2羽の死
しばらくは順調でしたが、立て続けにヒナが落下しました。1期目では経験したことがなかったので驚きました。4羽いるからしょうがないかと思い、すぐに巣に戻したのですが、その次の日に死亡しました。
3羽になり、大きなヒナをジャイアン、中くらいをチュータ、小さいのをチビと名付けて呼ぶようにしました。残念ながら、チビは次の日に死んでしまいました。おそらく立て続けに落ちたヒナのもう一羽です。つまり、落下=死という構図ができていました。4羽いたのがあっという間に2羽になりました。せめて、この2羽だけでも巣立ってほしいと思いました。
また、この落下死を受けて、RVBOXを巣の真下に設置して落下の高さを減らしたり、バスタオルを置くことで衝撃を軽減するようにしました。
このころから、見守り隊がライブのコメントで落下情報を教えてくれるようになりました。休憩時間にコメントを見れば、落下しているかどうかがすぐにわかるようになりました。
チュータの連続落下と原因分析
チュータは連日のように落下しました。1期目で「落下=死亡」というジンクスができていたので心配していたのですが、それが吹っ飛ぶくらい毎日落下してもピンピンしていました。
落下原因について、後からわかったのですが問題は二つありました。
1. ジャイアンとの体格差
ジャイアンとチュータの個体差がかなり開いていました。普通に給餌を待つと体格の大きなジャイアンが頭一つ抜け出すので、親鳥がそちらに優先的にエサを与えてしまいます。チュータは一歩でも前に出ようと無理をしていました。
2. 巣の右側の崩壊
巣の右側が経年劣化で削れてしまい、穴が広がったような状態になりました。
この二つが組み合わさり、左側のポジションが半歩ほど有利になりました。左側のポジション争いが激しくなり、一度下がって左側から割り込むローテーションが目立つようになりました。

ジャイアンも後ろから押される形になることはありましたが、危ないと感じるとすぐに回避し、落下したことはありませんでした。一方、チュータは後ろから押されても避けずに踏ん張ろうとして、そのまま転落していました。私は勝手にこれを「バックアタック」と名付けていましたが、これをくらって毎日のように転落を繰り返していました。
特に転落し始めて8日くらい経つと、チュータはあまり踏ん張ろうとしなくなりました。最初は3分くらい粘ってから落下することもあったのですが、私が毎回巣に戻していたので、落下に対する恐怖が薄れていたようです。
コシアカツバメの特性と対策の限界
落下防止についても考えましたが、コシアカツバメは一般的なツバメと違い非常に警戒心が強い鳥です。普通、ベランダには絶対に作らない鳥で、人がめったに通らないことが条件です。
巣の下からのアングルを取るためにカメラを仕掛けたりしましたが、巣から半径2mくらいだと親鳥は巣をぐるぐる回るだけで戻ろうとしませんでした。
また、落下した際に仮の巣を巣の真下に設置しました。落下しても給餌できるようにと思い段ボールで作ったものです。しかし、これですら親鳥は近づこうとしませんでした。3時間ほど近づかないことを確認して撤去しました。おそらく、別の鳥が巣を作ったのだと警戒したのだと思います。
コシアカツバメは落下したヒナに対して地上での給餌は全くしません。 一般的なツバメは地上でも給餌するようですが、コシアカツバメは本来もっと高いところに巣を作るので、落下=死というのが前提なのでしょう。また、ベランダという形状が深い谷に入るような感覚を与えるのかもしれません。
つまり、巣に戻したとしても落下すると以下の時間、給餌が得られません。
地べたにいる時間 + 落下から立ち直る時間 + ヒナを戻すことで親鳥が警戒している時間
そして、チュータが落下している間はジャイアンがエサを独占できるので、スクスクと育って体格差がさらに増していき、さらにバックアタックで後ろから押されて落ちる回数が増えるという負の連鎖が始まりました。
ジャイアンの巣立ち
そうこうしているうちにジャイアンが巣立ちました。残るはチュータのみ。期待がかなり高くなっていき、巣立ちも近いと思っていました。
奇跡の再会
そのころ、いつものようにチュータが落下したのですが、落ちているはずのベランダに見つかりませんでした。ベランダの外に出ていってしまったようです。
これまで計4羽の成長でパタパタの練習具合と毛並みから巣立ちできるかどうかの判断はできるようになっていましたが、まだまだだったのでとても心配しました。
周辺を探し、マンションの管理人にも迷い鳥を申告しましたが、砂漠で針を探すようなものです。おそらく半径30m以内にいるとは思いましたが、小さなヒナを畑や田、小川、民家がある中で探すのは不可能です。その後、ゲリラ豪雨もあり、確実に死んだなと思っていました。
それでもわずかな望みをかけて、昼休憩にどこに落ちていたかを考えていると、通行人が何かを見つけたのか立ち止まりました。もしかして?と思い急いで駆け寄ると、チュータがいました。本当に奇跡の鳥だと思いました。このころから、なんとしても巣立たせたいという気持ちになりました。見守り隊の皆様も同じような気持ちだったのだと思います。

通報システムの構築と愛着の深化
このころは誰かが巣を見守ってくれるようになったので、通報システムを作成しました。YouTubeのコメントで「hina」と打つと、私のLINEに通知がくる仕組みです。ヒナを少しでも早く巣に戻すことが私にできる最善策だと思ったからです。(技術的な詳細はこちら)
LINE通知が来るたびにドキドキするようになりました。落ちていないだろうかという心配。落ちたときに前回のように失踪していないだろうかという心配。なかなか落ち着けない日々でした。盆連休も土日も返上し、見守ることに徹しました。自分でも驚くほど愛着が出てきていました。
しかし、転落の回数が一日2回となり、3回となり、異常な状態になりました。ジャイアンは巣立ちし飛行訓練が始まったので、給餌回数も少なくなり、チュータは少しずつ弱っていたように思います。
保護の判断と、見落としていた親鳥の役割分担
巣立ちを促すために、親鳥は給餌を意図的に止めます。ある日、3回の転落と、気づいた時間が遅かったことから、親鳥がいる巣に戻すのもびっくりさせてしまうと思い、緊急的に保護しました。ペットショップでミルワームを購入し、給餌しました。
その日は警戒していたので口を無理やり開けて食べさせましたが、次の日は元気になり、自発的にエサを食べるようになりました。
急いで夕方に親鳥が帰宅する前にヒナを巣に戻しました。ジャイアンと一緒に外出していた母鳥も戻ってきた後、チュータに2回ほど給餌があり、安心していました。
しかし、ここで重大な見落としがありました。
実は、このころ父鳥と母鳥で役割が分かれていたのです。
- 母鳥 → ジャイアンの飛行訓練担当。日中は外出し、夕方に帰宅。
- 父鳥 → チュータの給餌担当。日中に巣に来てエサを運ぶ。
私はチュータを丸一日保護していました。その間、父鳥は巣に来てもヒナがいないことを確認しています。夕方に巣に戻した後、母鳥が帰ってきて給餌してくれたので「大丈夫だ」と思いました。しかし、母鳥はあくまでジャイアンの飛行訓練担当です。日中にチュータにエサを運ぶのは父鳥の役割でした。
父鳥は、巣にヒナがいないことを確認した時点で「もう巣立った」と判断し、給餌をやめてしまったようです。 翌日から、日中の給餌は一切再開されませんでした。
ヒナがまだ小さく、両親が交互に給餌している段階であれば、多少の不在は問題ありません。しかし、今回のように一部のヒナが巣立つと、残ったヒナと巣立ったヒナで親の担当が分かれます。さらに最後の1羽だけが残っている状態では、給餌担当の親がヒナ不在を確認した時点で「もう巣にはいない」と判断してしまうのです。
最期の日
チュータは何も食べていない状態で、翌朝10時ごろに自らジャンプして落下しました。おそらく空腹のあまり、人にエサを求めた結果だと思います。仕方なくミルワームとバッタを食べさせ、給餌が再開することを祈り巣に戻しました。
このころからチュータの体調が目に見えて悪化していました。本来であれば目をぱちくりさせて、たまに眠るくらいのはずが、ほぼずっと目を閉じていました。今考えれば何かに苦しんでいたのだと思いますが、当時はそれに気づくことができませんでした。
また、この日はその年の最高気温を更新するというニュースが出るくらいの猛暑で、9月前だというのに35度でした。
そして夕方。絶食状態のまま、ジャイアンと母が戻ってきました。母は給餌をしようとしたのですが、ジャイアンに押し落とされて落下しました。 この時の映像はかなりふらついている状態で、抵抗がない状態で落ちたようにも見えました。

最後の試み
ライブ配信の視聴者と相談し、チュータを保護して保護センターに引き取ってもらう方向に決めました。最悪、ここまでの付き合いなら、里親探し、あるいは飼うことも腹をくくりました。
しかし、拾ったチュータは立てないくらいに衰弱していました。羽はぶら下がり、足も踏ん張れず、お尻がついている状態。無理やり給餌しようとしたのですが、舌が丸まっている状態でした。後で調べたところ、極度の脱水状態だったようです。
つまり、消化不良 + 猛暑 + 絶食 でかなりの脱水状態になったところに落下し、受け身もとれず、落下のダメージが致命傷になったのだと思います。
見守り隊の方からのアドバイスで砂糖水を与えてやると、一時的にうそのように元気になりました。21時ごろに再度給餌するころには自らエサを食べるくらいに回復していました。24時くらいに再度給餌しようと思ったのですが、グッスリと寝ているようでしたのでそのままにしました。
しかし、翌朝。チュータはひっくり返って死んでいました。
学んだ教訓と反省
今回の経験から得られた教訓をまとめます。同じ状況の方の参考になればと思います。
教訓1:巣の形状を早期に補修する(最重要)
巣の右側が崩れていたことが、落下の根本原因でした。ヒナが卵の状態、またはヒナが小さい段階であれば巣を放棄しない可能性が高いです。かなり早めの段階で巣の形状を補修しておくべきでした。
ただし、巣の形状は真下からよく観察しないと分からないので、気づくのが難しかったのも事実です。
教訓2:落下防止棚を早期に設置する
視聴者の方から「なぜ落下防止の棚を設置しなかったのか」という話もありました。確かに、そうしておけば助かったかもしれませんが、警戒心が強いので寄り付かない可能性が怖かったのと、毎日落下しても問題なく過ごしていたので感覚が麻痺していたのだと思います。
落下防止棚は以下の要件で考えると良いです。
- 設置を素早くできること
- 取り外せること(放棄しそうになった場合に備えて)
- なるべく巣に近いこと(カラスなどに見つかりづらい)
実際に巣立ち後にテストしたところ、簡易的な落下防止棚(段ボール+フック+キッチンペーパー+ガムテープ)を設置しても巣の放棄はしませんでした。

教訓3:一部のヒナでも巣立つと、親の役割が変わる。保護したらすぐ戻す
ヒナが小さいうちは両親が交互に給餌していますが、一部のヒナが巣立つと、父と母で担当が分かれるようです。今回は母がジャイアンの飛行訓練、父がチュータの給餌を担当していました。
ここで注意が必要なのは、給餌担当の親がヒナの不在を確認すると、「もう巣立った」と判断して給餌をやめてしまうということです。特に最後の1羽だけが残っている場合、保護などで巣を空にしてしまうと、戻しても給餌が再開されないリスクがあります。
やむを得ず保護する場合でも、できるだけ早く巣に戻すべきでした。
最後に
今回はワーストケースだったと思います。何度も救い、失踪して見つけ、保護してと、少し関係が強くなりすぎました。定点観測を始めた当初は「敷地を貸しているだけ」のつもりでしたが、気づけばそうはいかなくなっていました。こういうケースがあることを知った上で、最悪、自身が飼うくらいの覚悟がないと辛くなるということは、お伝えしておきたいと思います。
今後のために、巣についてもう少し研究したいと思います。
定点観測システムについて
ちなみに定点観測システムはソースコードを公開していますし、ラズパイとWebカメラで作られていますので2万円程度でできます。ぜひ活用してみてください。
- ソースコード: GitHub – bird-watching-youtube-streamer
- LINE通報システム: GitHub – comment-line-bot-youtube


